仙台高等裁判所 昭和40年(う)50号 判決 1965年5月27日
控訴人 原審弁護人
被告人 飯田喜代司 外三名
弁護人 祝部啓一
検察官 佐々木衷
主文
原判決を破棄する。
被告人飯田喜代司を罰金一〇、〇〇〇円に、被告人木材竹五郎を罰金五、〇〇〇円に、被告人高橋賢蔵および同小山内喜代吉を罰金三、〇〇〇円に各処する。
右罰金を完納することができないときは、金四〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
被告人四名に対し、公職選挙法第二五二条第一項所定の選挙権および被選挙権を有しない期間をそれぞれ二年間に短縮する。
(訴訟費用に関する部分は省略)
理由
本件各控訴趣意は、弁護人祝部啓一名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一(事実誤認、法令適用の誤り)について。
しかしながら、原判決の挙示せる原判示一および同二の各事実関係の証拠によれば、原判示各事実を優に認定できるのである。記録を精査しても原判決の右認定に誤りのあることは認められない。所論(第一のうち(三)の(イ)、(ロ))は、被告人飯田喜代司が自己に投票して貰うことになつたお礼の目的で訪問したものである旨主張して、原判示各事実を争うけれども、この点について誤認のないことは前示認定により明らかである。この点に関する論旨は理由がない。次に所論(第一のうち(一)、(二)の(イ)、(ロ))は、原判示一の事実について選挙人小笠原みつゑ、同木村たみ、同若山市三郎、同秋田男逸、同三上ちせ、同新山チヱ、同神尾八重、同神サヨの九名ならびに原判示二の事実について選挙人花田ミワ、同船水サヨ、同阿部いと、同山口トヨ、同田辺とよの五名はいずれも当時被告人飯田喜代司が投票依頼のため各選挙人方を訪問したことの認識を有しなかつたから、戸別訪問は成立しない旨主張する。しかし公職選挙法第一三八条第一項の戸別訪問は、選挙に関し投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的で、選挙人方を訪問することによつて成立し、所論のように訪問当時選挙人において投票依頼のため選挙人方を訪問したことの認識があつたかどうかは、戸別訪問の成否に関係ないものと解せられ、従つて原判示が挙示の証拠により所論各選挙人について戸別訪問を認定したことは、前示認定のとおりであり、これに公職選挙法一三八条第二三九条第三号を適用したのは相当である。この点に関する論旨も理由がない。所論(第一のうち(二)の(ハ)、(ニ))は、原判示一の事実について選挙人新山チヱ、同板垣愛子は、被告人小山内喜代司方の二階を間借しているもので、新山、板垣が訪問を受けた場所は、被告人小山内方の階下であつて、右個所は被告人小山内において占有支配しているところである。従つて右両名に対する戸別訪問は成立するに由ないものである旨主張する。しかし、原判決の挙示せる被告人小山内喜代吉の司法警察員に対する供述調書、被告人高橋賢蔵の検察官に対する供述調書、原審第五回公判調書中証人板垣愛子の供述記載、原審第六回公判調書中証人新山チヱの供述記載(被告人飯田、同小山内に関しては同証人尋問調書)によれば、原判示選挙人板垣愛子、同新山チヱはいずれも被告人小山内喜代吉の家の二階を間借しているものであること、原判示四月中旬頃、被告人飯田喜代司、同小山内喜代吉、同高橋賢蔵は共謀の上、原判示選挙に関し、被告人小山内の家に間借している選挙人より自己に投票を得又は被告人飯田に投票を得しめる目的で、右小山内の家に至り、被告人飯田、同高橋がその玄関に入り、被告人飯田がその玄関口に立ち、被告人小山内が二階に間借している前示板垣、新山の両名を右玄関近くの階下に呼び出したうえ、被告人飯田のため投票方を依頼したこと、被告人飯田が立つていた右玄関口は道路ではなく、間借人達が通るところであり、右板垣、新山のいたところから約二米離れたところであることなどの事実が認められる。かように二階に間借している選挙人を階下の玄関およびこれに接着した玄関口等に訪れ右選挙人を右玄関近くの階下まで呼び出した上、投票方依頼した場合には、社会通念上右選挙人方についてこれを訪問したものと解すべく、公職選挙法第一三八条第一項の罪が成立するものと認めるのが相当である。従つて原判決が被告人飯田、同高橋、同小山内の選挙人新山チヱ、同板垣愛子に対する原判示戸別訪問の事実を認定し、公職選挙法第一三八条第二三九条第三号を適用したのは正当であり、原判決には所論のような誤りのあることは認められない。論旨は理由がない。
(他の控訴趣旨に対する判断は省略。)
(裁判長裁判官 細野幸雄 裁判官 畠沢喜一 裁判官 寺島常久)
弁護人祝部啓一の控訴趣意書
第一、原判決は判決に影響を及ぼす事実の誤認した上法令の適用を誤つた違法が存する
(一)(ハ) 更に証人新山チヱの訊問調書によると「私は被告人小山内喜代吉の二階に間借りしています。被告人高橋賢蔵と被告人小山内喜代吉、被告人飯田喜代司の三人が訪ねて来ましたが玄関の内には高橋と小山内の二人だけが入りました」旨の証言、証人板垣愛子の訊問調書中「私は被告人小山内喜代吉の家を借りているのです。私達は七軒位借家しております。そして私達は二階に住んでいます。夕食中でしたが私と隣りの新山チヱの二人が被告人小山内喜代吉に呼ばれたので階下に降りて行つたら被告人小山内喜代吉と被告人高橋賢蔵の二人が居たのです」旨の証言が存する。右各証言によると訪問を受けた場所が右各証人が占有支配している所であるか又は被告人小山内喜代吉に於て占有支配している場所であるのか判然としない。弁護人に於て調査したところ右各個所は被告人小山内喜代吉に於て占有支配している個所で同人に於て日常使用しているということが判明した。
(二) 而りとすれば戸別訪問罪が第三者の居住し又は占有支配する区域に於てのみ成立するという従来の判例の立場から考えても右証人板垣愛子同新山チヱに対する被告人らの共謀による戸別訪問ということは到底考えられないのでこの点からも原判決は事実を誤認した上法令の適用を誤つた違法が存する。
(他の控訴趣意は省略。)